虫歯はなぜ治す必要があるのか?

「歯は、虫歯になっても元の健康な状態に戻れる」‥そんな話を聞いたことはありませんか?
これはある意味本当で、初期の虫歯であれば再石灰化によって自然治癒が可能とされています。
しかし、これは顕微鏡レベルの話で、表面に傷がついた程度ならということです。
この状態を放置し、歯の表面のエナメル質に穴があいてしまう(象牙質に達する)と、再石灰化による自然治癒は期待できません。
つまりご自身で虫歯を自覚された時にはほとんど遅く、歯医者で治さなければなりません。

虫歯とはどのような病気か?

では、虫歯とはどんな病気かを簡単におさらいしておきましょう。
虫歯(う蝕)は、歯垢の中に棲む虫歯菌が歯にくっつき、食べ物のカスを分解して放出する酸により、歯のミネラル(カルシウムイオンとリン酸イオン)を奪って、次第に足場が強固になり、爆発的に酸を産生する細菌もすみついて歯を破壊していく病気です。
風邪はウィルスが起こす感染症とされています(まだ完全には解っていない)が、虫歯は細菌が起こす感染症です。
なお、酸によって歯のミネラルが奪われることを「脱灰(だっかい)」といいます。
歯の表面はエナメル質という硬い組織があり、その内側に、エナメル質よりも柔らかく酸に弱い(脱灰しやすい)象牙質の層があります。
エナメル質は、水分がほとんどなく、カルシウムとリンから成る水酸化アパタイトという成分が約97%くらいの組織ですが、象牙質は水酸化アバタイトが約70%ぐらいで、残りは水分や他のミネラルで構成されています。(骨は水酸化アバタイトが約60%で象牙質に似ています)
人間の唾液には、歯にカルシウムイオンとリン酸イオンを補給し、脱灰した歯を元に戻す「再石灰化」という自然治癒力が備わっています。
この能力は表面のエナメル質の少量の欠損に有効なので、通常みなさんが虫歯と感じたときには遅いのです!
さらにブラッシングやフロスなどで十分に歯のメインテナンスを行わず、歯に歯垢がついたままの状態が続くと、脱灰と再石灰化のバランスが崩れ、脱灰が一方的に進んでしまうのです。

それでは虫歯は放置するとどうなるのでしょうか?

虫歯は感染症ですから、元を断たずにそのままにしていると病気を抱えたまま生活しているということになります。
免疫機能があるため大きな疾患にはなっていないだけで、免疫機能が低下したときには、血液などを通じて細菌が増殖して全身に運ばれ、死に至ることもあります。細菌は血液中にすぐに入り込むので、虫歯だからといって安易に放置してはいけません。

ではどんな症状を引き起こすのでしょうか

歯の神経に激しい痛みが生じる

虫歯が進行して神経まで達すると激しい痛みを伴うことがあります。人によっては眠れなかったり、我慢できないほどの痛みになります。

膿が溜まって歯茎が腫れ始める

放置して虫歯により歯の神経が死んでしまうと、歯の根の中に細菌が常駐するようになり、その細菌との反応で顎の骨に膿が溜まって歯茎が腫れ始めます。歯茎が大きく腫れてしまうと、思うように口が動かせなくなったり、食事をすることにも悪影響があります。
膿が溜まってしまうと、麻酔として歯茎を切開したり、骨をけずったりして膿を出さないといけません。
また、細菌が顎の骨にまで感染すると顎骨骨髄炎になってしまう場合があります。

歯が割れやすくなる

歯は神経がなくなると、割れやすくなります。
虫歯の進行を止めていない以上、虫歯の侵蝕による欠損部分はさらに広がります。
かみ合わせの圧がかかることで、歯が割れやすくなるのは当然です。
歯の割れ方が垂直方向に起ると、歯科でも治療の選択肢が抜歯になっていきます。

副鼻腔炎を引き起こす

上顎の奥歯は副鼻腔(上顎洞)に近いところにあります。
上顎の奥歯の虫歯を放置していると細菌が副鼻腔にまで感染していきます。
そのため副鼻腔炎になってしまい、抗生物質で抑えながら歯の治療を行うことになります。

さらに頭痛になる

副鼻腔炎がひどくなると、副鼻腔の内圧が高まり、周りの神経を圧迫して、頭痛が起こります。
これは中鼻道にある自然孔という鼻との交通路が閉鎖されていなければ、内圧が高まりずらく起こりにくいのですが、鼻の形態などにより、その孔が閉鎖されている場合に起こります。
歯痛と頭痛は同時にくると耐え難い痛みになります。
それに伴って目が痛くなったり、口臭を引き起こすこともあります。

顎関節症になる

虫歯を放置していると、歯のあたり方により噛み合わせが変化していきます。
噛み合わせが変わることで体調不良に陥ったり、発熱や吐き気を催すことがあります。

虫歯は細菌による感染症です
そのため口の中だけでなく身体に感染してしまう可能性があります

心筋梗塞を起こす

関係性としては歯周病菌の方が強いとされていますが、心臓の内膜には口と同じようにバイオフィルムが作られるとされています。
感染性心内膜炎と歯科治療の関連性はかなり高いとされていて、弁膜などの疾患をお持ちの方には必ず抗生物質の投与が必要となります。

敗血症、脳梗塞を引き起こす

虫歯菌が血管の中に入りこんでしまうと、全身に細菌がめぐって敗血症、脳梗塞といった重度の病気になってしまう可能性があります。
血液中に細菌が入り込んだ状態が敗血症で、発熱や全身倦怠感を引き起こします。
もともとの虫歯とはかなり遠く離れた部位でも虫歯菌は病気を引き起こします。
ストレスにより大きな細菌の塊が血液中に流れてしまい、そこで血管をつまらせてしまいます。細菌によって汚染された血液が脳まで到達して血管が詰まれば脳梗塞を引き起こすのです。

虫歯の放置で死に至ることもある

このように虫歯を長い間放置しておくと細菌が全身に拡散され、死に至るという事例も起きています。
実際に敗血症や脳梗塞で命を落としている人がいます。このように歯だけではなく身体の各所に症状が起きてしまいます。
また、虫歯が進行して神経が死んでしまうと痛みを感じることがなくなるため、治ったと勘違いしてしまいがちです。そして、痛みがなくなったのでそのまま放置しておくケースがよくあります。
たかが虫歯とはいえ、放置しておくと口の中だけでなく全身の病気を引き起こす危険性があります。
歯を守ることが全身を守ることにも繋がるということをよく知っておきましょう。